「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割」について

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割」について

2020年04月18日発行の「日本医事新法」No.5008に、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する漢方の役割」渡辺賢治(横浜薬科大学特別招聘教授)他という論文が掲載されました。

 

その内容は、中国・韓国・台湾における伝統医学の専門家から得た伝統医療ガイドラインなどの情報を整理して述べるとともに,わが国において、漢方医学がCOVID-19対策としてどのようなことができるのかについて考察したものです。

 

中国においては,政府が主導して新興感染症に対する中医薬を作成し、それを使うことに,西洋医学の医師も患者も抵抗がなく、それだけ信頼度が厚く、活用されています。

COVID-19に対して,中国政府は国務院通知として、「新型冠状病毒肺炎診療方案」を発表し、

今回傷寒論処方である「清肺排毒湯」を作成し幅広く用いられました。重症者には、日本では使用できない中医注射剤も用いられます。

 

韓国でも中国ガイドラインを加味して、大韓韓医師協会が,韓医学診療勧告案を作成しました。このガイドラインでは、複雑な診断や追加教育を最小化し,すぐに対処ができるよう工夫しました。韓方処方として、初期,中期では、症状に応じて3〜4個のタイプの鑑別が可能なようにし、比較的治療が難しい最重度の場合には,シンプルな治療方法を提示しています。処方構成は,中国の衛生委員会診療案を主に参考に総合的に構成してあります。

 

台湾では、台湾国家中医薬研究所・蘇奕彰所長の作成したガイドラインがあります。他のガイドラインに比し、予防の処方に関して具体的な薬方が記載されています。健康な人で地域感染がなければ,食事・運動など健康を維持する努力を続けますが、リスクの高い場合は、疾病や個人の体質に合わせ体質調節の処方を作成する必要があります。

台湾の中医薬の特長は、エキス剤に生薬末を組み合わせて処方を作製するところです。また西洋医学の医師でも理解できるように伝統医療の表現を少なめにして,予防の段階から記述していることも特徴です。

 

さて、日本の医療事情では、①ハイリスク患者の感染予防と、②軽症患者の重症化予防に、漢方が貢献できるのではないかと筆者は考えます。

 

特に興味深いのは、

「①のハイリスク患者の感染予防は,漢方治療で最も重視する「未病の治療」である。『黄帝内経』の説く「気を増す」、すなわち生体防御能を増すことが漢方の役割と考える。」(全文引用)という部分です。

 

『黄帝内経』とは2,000年前の中国最古の医学書です。黄帝内経には我々の体内には邪気と闘う「衛気(えき)」と「営気(えいき)」の2つのシステムが構築されていて、衛気は体表面にあり、発汗調節を担い「濁」である物質群を制御するのに対し、営気は「清」と呼ばれる純化した物質を選別し「栄養素」として「血管」内に送り込み、血液の運行を含め全身を制御するものであることが記載されています。これを現代免疫学に当てはめると、衛気を自然免疫、営気を獲得免疫とも解釈でき、体内の気を充実させることが生体防御能を高めることに繋がることが理解できます。

 

気を増すためには日々の「養生」が何より大切で、正しい食事・適度な運動、十分な休養が基本になります。それに加えて,漢方では徹底的に冷えを嫌うので、冷たい飲食物を避け、適切な衣服や、生姜汁などで体を温めます。

暴飲暴食は最悪で、胃腸が弱ると防御機能が弱ると考えられています。正しい食事も胃腸機能で正しく消化吸収されてこそ、養生になるのです。

感染症や他の大病に比べると、胃腸の調子くらいと思われがちですが、そここそが防御機能の要になる部分です。

 

ところで我が国の伝統医薬には、生薬を用いた古来より独自処方(単味で使われることも多かった)の和漢薬と、中国より伝来し日本独自の形で進化した漢方薬とがあります。どちらも製剤化され、使用しやすい形になっています。

和漢薬といえば、日本で古くから薬用にしていたキハダ(オウバク)を主体とし、修験道の開祖である役小角(えんのおずぬ)が編み出したと言われる胃腸薬があります。それに、南都仏寺の知恵が加わり、センブリ、ケイヒ、カンゾウなどが加わり独自の配合量で多くの処方が生まれ、日本人の脾胃(消化器官)の失調を整え、本来の元気を取り戻すため何百年も使用されてきました。

膽肚羅丸もそのようなルーツを持つ処方ですが、高麗人参(紅参)と熊胆、牛胆を追加し、現代人の食生活や生活環境により合うよう考慮した処方になっています。

紅参は、ストレスから胃腸を守り、ケイヒと共に脾胃を温め機能を向上させます。

熊胆や牛胆は、数百年前には少なかったであろう油脂分から脾胃を守ります。

膽肚羅丸はこのように、温故知新の息吹をもって創薬されました。

膽肚羅丸=健胃薬という考えかたは、正に未病を防ぐための養生、防衛機能の主戦力となりうる常備薬と言えます。

 

膽肚羅丸の成分は、センブリ・オオバク・ケイヒ・カンゾウ・コウジン・ユウタン・ギュウタンです。

 

センブリエキス (千振・当薬)

日本で古くから健胃薬や整腸薬として使われてきた独自の薬草で、「千回振出してもまだ苦い」ことから名付けられました。

近年では、ピロリ菌に対する殺菌効果や、血糖値を下げる働き、肝機能の保護作用なども注目されています。

苦味健胃薬:苦味成分が消化液の分泌を促進し、胃弱、食欲不振、胃部腹部膨満感、消化不良などに効果があります。また、食べ過ぎ、飲みすぎ、二日酔いにも効果があります。

 

オウバク末 (黄柏)

ミカン科キハダ属の落葉高木で、樹皮はコルク質で、外樹皮は灰色、内樹皮は鮮黄色です。内樹皮からコルク質を取り除いて乾燥したものが用いられます。その名の通り黄色く、「キハダ」と呼ばれ日本でも古くから健胃薬や整腸薬として薬用にしていました。

オウバクの主成分であるベルベリンには、赤痢菌、コレラ菌、黄色ブドウ球菌に対する抗菌作用があります。

苦味健胃薬:主成分はベルベリンで、消炎作用があり、胃のむかつきや胸やけに効きます。

また、消化不良、食べ過ぎ、飲みすぎにも効果を発揮します。

 

ケイヒ末(桂皮)

ニッキやシナモンと呼ばれ特有の香りが香辛料としても使われています。

クスノキ科の常緑高木、ケイの樹皮または周皮の一部を除いて乾燥したものです。健胃のほかに血行促進や免疫賦活作用があります。漢方では気の上衝を抑える働きがあると言われています。最近は、単独で糖尿病薬としても使用されています。

芳香性健胃薬:精油成分が消化を助け、食欲を増進します。また食べ過ぎ、飲みすぎ、胃のむかつきにも効果があります。

 

カンゾウエキス(甘草)

中国北部に自生するマメ科の多年草ウラルカンゾウなどの根およびストロン(つる性の茎)を乾燥したもので、諸薬を調和すると言われ多くの漢方薬に使用されています。

主成分のグリチルリチンには抗炎症作用や胃酸分泌抑制作用があり、胃炎の修復に有効で、胃のむかつきに効果があります。また肝臓を保護する薬としても使われています。

 

コウジン末(紅参)

中国東北地区、朝鮮半島、日本で栽培されるウコギ科のオタネニンジン(御種人参)の6年根の外皮を傷つけないように水洗いし、布で巻いて蒸して乾燥します。3回以上蒸して乾燥を繰り返したものが紅参です。

よく聞く高麗人参と言われるものです。細胞の活性化、全身機能の改善を図る代表的な生薬で、多くの漢方製剤に配合されています。胃粘膜の血行を良くしたり、抗ストレス作用がありストレスに負けない胃をつくります。胃弱や食欲不振に効果があります。

薬効;抗疲労、強壮、強心、鎮静、胃腸の衰弱による新陳代謝機能の低下、胃部のつかえ、食欲不振などに有効です。高麗ニンジンと呼ばれるもので漢方ではすぐれた補剤です。

神経系に対しては、血圧降下・呼吸促進・消化管運動亢進・筋肉疲労回復・抗ストレス作用などがあります。生体の反応性に対して、有害刺激に対する防御能力を高めたり、抗アレルギー作用や新陳代謝を亢進する働きがあります。

 

ユウタン(熊胆)

クマノイ(熊の胆)と言われ、日本古来の高貴薬、万能薬として、珍重されて来ました。

ツキノワグマやヒグマの胆汁を乾燥したもので、主成分のタウロウルソデオキシコール酸に利胆、解毒作用があり、胃もたれ、胸やけ、消化不良、二日酔いに良く、胸つかえ、はきけ、嘔吐に効果が期待されます。

薬効;胆汁分泌促進作用、脂肪消化促進作用、利胆作用・胆石溶解作用・鎮痙作用、コレステロールの排泄作用などがあり、消化不良、胃もたれ、むかつきなどに有効です。

 

ギュウタン(牛胆)

ウシ科ウシまたは水牛の胆汁を乾燥したもの。

牛の胆汁を乾燥したもので、胆汁成分が熊胆の効果を補足することが期待されます。

 

東洋医学では、脾胃(消化器官)の失調を整えることが、全身の元気につながると考えます。五臓六腑は互いに関連し合って働いているからです。

 

飲みすぎや食べ過ぎは、脾胃を損傷し、食滞が起こります。食滞とは文字通り、胃の中に食物が停滞することですが、その結果、食欲不振・膨満感・胃痛・悪心・嘔吐などの症状が起こります。気・血・水の運行を円滑にすることで、消化液の分泌や、胃の運動により食物を腸へ送り、食滞を改善します。

胃腸は精神的な影響を受けやすいと良く言われます。

例えば、緊張すると、胃が痛くなったり、下痢をする。イライラすると、暴飲暴食にはしる。思い悩むと、食欲がなくなる。など、これらは気が円滑に流れなくなった影響が、胃腸に現れたものと考えます。

ストレスが胃に影響すると胃痛を招き、脾に影響すると下痢などを引き起こすと考えられています。

新型コロナウイルスに感染したわけではないけれども、不安や心配で体調がすぐれない、いつもと違う。こんな感じは、脾胃に影響し免疫力を低下させてしまいます。正しい食事・適度な運動や睡眠、信頼できる人と電話やSNSなどで会話することも大切です。そして膽肚羅丸などを用いて、気・血・水の運行を円滑にすることで、脾胃もよく働くようになります。

余談ですが、10年程前になりますが、ベトナムの露店で食べ歩きをしたいと仰るご家族がいらっしゃいました。毎食後膽肚羅丸を服用し、無事体調も良好なまま、満喫されて帰国できたと、お聞きしたことがあります。

 

西洋薬は、問題のある部分に特化して、化学的又は物理的に外から過不足を調整する事に主眼が置かれているので、常用すると返って身体の機能のバランスが崩れてしまうようなこともあります。

しかし、何百年もの長い間の経験に裏打ちされた和漢薬は、常用することで、身体の機能が円滑に働き、本来の元気を取戻すと考えられます。

 

 

②の軽症患者の重症化予防にたいしては、「感染徴候が少しでもあったら,ごく初期の症状を見逃さずに早めに葛根湯,麻黄湯を服薬する。高齢者は熱産生が弱いので麻黄附子細辛湯が良い。

COVID-19は上咽頭のみならず,気道の奥深く肺胞に達するところで増殖し,症状が出てから一気に悪化すると言われている。そうすると発熱を認めた時点で,葛根湯・麻黄湯では対応は不可能と考える。柴葛解肌湯か柴陥湯を処方する。柴葛解肌湯は葛根湯と小柴胡湯を合方すると近いものができる。生薬治療が可能であれば中国で既に効果が実証されている清肺排毒湯を処方するのがよい。

我々が動物実験で示してきたように,感染はウイルスの増殖スピードと生体防御能の競争である。重症化する前に本疾患の山場があると考えた方がよい。早め早めに適切な漢方治療が必要である。」と筆者は述べています。

 

古くから風邪のひき始めに使用されてきた葛根湯、麻黄湯、小青竜湯などは麻黄剤と呼ばれています。

これらは、ウイルスが侵入した局所でサイトカインの生産を増強し、ウイルスの増殖を抑えます。

全身では、感染した肺へ大量の免疫細胞を送り込み、感染した範囲の損傷を取り除き、組織を修復します。ところが、免疫系が過剰反応し暴走してしまうと、健康な組織も含めあらゆるものを損傷してしまい呼吸器不全に陥ることがあります。

麻黄剤は、免疫の過剰反応である炎症性サイトカインの全身での産生は抑制しますので、免疫系の暴走を抑えることができ、全身症状を改善すると考えられています。このようにサイトカインを調整する作用があるため、重症化の予防に役立てるのではないかと思います。

 

ウイルスは単体では移動できず必ず人と共に移動します。何よりも先ず、罹らない、うつさないことです。そのために今できること、すべきことを各々がよく考え、行動いたしましょう。

 

 

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