主な生薬のご紹介

主な生薬のご紹介

生薬とは、薬効のある天然素材を加工調整したもので、植物性、動物性、鉱物性のものがあります。ほとんどは、植物の茎や根、実などを乾燥させたものです。素材をどのように処理するかによって薬効が変わるため、漢方で用いられる生薬は、それぞれに決まった方法にのっとって加工調整されます。

漢方治療に用いられる方剤は、特定の割合で組み合わされた生薬で構成されています。煎じ薬として用いる場合も、その割合で組み合わせた生薬を煎じて服用します。

ここでは、漢方薬に含まれている主な生薬を紹介します。

〇黄耆(おうぎ)

気虚を改善し、五臓の働きを高めるとされ、強壮作用、滋養作用とともに、体内に滞った水を除く作用もある。体力の低下、むくみ、発汗異常などの改善を目的に用いられることが多い。

〇黄ごん(おうごん)

熱を冷ましながら、水の滞りを除く作用が考えられている。これらの作用により、みぞおちのつかえや胃の不快感、膨満感、下痢などの症状を改善する。解毒作用もある。

〇黄連(おうれん)

熱を取って、水の滞りを除き、みぞうちのつかえや膨満感を取り、腹痛や下痢、嘔吐を改善する。黄ごんとも似ているが、黄連は精神不安の鎮静にも働き、胸苦しさや動悸などを緩和する。解毒作用もある。

〇葛根(かっこん)

くず湯や葛餅の原料の葛粉は、クズの根から取ったでんぷん。生薬としての葛根は発汗作用、解熱作用、鎮静作用、うなじや背中のこわばりを治す働きがある。かぜや肩こりに用いる葛根湯はよく知られる漢方薬。

〇乾姜(かんきょう)

生姜と同じショウガの根茎だが、加工法の違いにより、冷えを改善する作用は乾姜の方が強い。冷えをともなう腹痛、腰痛、下痢などの治療に使われる。消化機能を促進する作用もある。

〇甘草(かんぞう)

さまざまな生薬の働きを調和させる目的で使われることが多く、最も使用頻度が高い生薬である。疼痛緩和のほか、緊張をゆるめる働きがある。複数の漢方薬を用いるときには甘草の総量に注意が必要である。

〇杏仁(きょうにん)

杏仁豆腐などに使われるときは「あんにん」という。胸のあたりの水の滞りを正し、咳や痰、息切れなどの改善に働くため、呼吸器系の症状によく使われる。便通をよくする漢方薬に配合されることもある。

〇桂皮(けいひ)

気の巡りを整え、発汗によって体表の毒を除く働きがあるとされる。また、解熱、鎮静、血行を促進し、抗血栓などにも効果がある。頭痛、発熱、かぜ、のぼせ、疼痛などの際に用いられる。

〇厚朴(こうぼく)

気を巡らせ、緊張や痛みをやわらげる作用があり、胸部や腹部の腫れや腹痛、膨満感を改善する。整腸、去痰などの効果も期待できる。筋弛緩作用がある成分が含まれているため大量の摂取は避ける。

〇五味子(ごみし)

体内に偏って滞留している水を拡散させる働きとともに、肺の機能を調整して咳や痰を鎮める作用がある。寝汗や下痢などにもよいとされる。滋養強壮作用もあり、疲労感を感じる時にも使われる。

〇柴胡(さいこ)

熱を冷まし、気のうっ滞を除く作用などがある。病状が少陽病に入ったときに使う薬に配合されることが多く、それらを総称して柴胡剤という。柴胡剤は応用範囲が広い方剤である。※少陽病:かぜで例えると、熱は下がったが咳が長引く、食欲がわかないなどの時期の事。

〇細辛(さいしん)

痛みを鎮め、体を温める作用があり、体表や胸あたりにたまった冷えや水を温めて発散させる働きがある。のどの痛み、鼻水、咳や痰などの症状をやわらげる目的でかぜの薬に配合されることも多い。

〇山梔子(さんしし)

熱を冷まし、精神を安定させる働きがあり、のぼせ、胸苦しさをよくするとともに気うつをよくする。血を冷ます作用もあり、解毒作用もある。

〇地黄(じおう)

血の不足の補い、腎の働きを活性化する。根をそのまま干した乾地黄は熱を冷ます働きが強く、蒸して乾燥させた熟地黄は衰弱した体を元気にし、不足した血を補う働きが強い。

〇芍薬(しゃくやく)

血の巡りをよくする生薬の代表で、血行をよくする。筋肉のけいれんを鎮めたり、鎮痛作用もある。冷え性や婦人病に対する方剤によく配合される。漢方処方で最も多く使われる生薬の1つである。

〇生姜(しょうきょう)

体を温め消化機能を整える働きがあり、健胃・食欲増進に使われる。胸がつかえてムカムカしたり、げっぷが出たりするのを治す。体を温める作用は生姜よりも乾姜のほうが強い。

〇石膏(せっこう)

止瀉作用、熱を冷ます作用があり、激しい口の渇きや熱感・ほてりがある場合に用いられる。むくみやかゆみにも用いられる。陰証の人には用いない。鉱物性の生薬のひとつである。

※陰証:寒さに弱い・寒がりタイプ

〇川芎(せんきゅう)

血と気の巡りをよくし、体のバランスを整える。鎮静・鎮痛・補血、強壮などに効果があり、頭痛やのぼせ、貧血、月経異常などの婦人病に用いられることが多い。かぜによる頭痛や関節痛などの痛みを取る。

〇蒼朮(そうじゅつ)

水滞の改善に用いられる生薬で、体内の水分代謝を正常にする働きがある。消化機能を高める作用もある。関節痛・神経痛などを改善する漢方薬にも配合されている。白朮と似た作用がある。

〇大黄(だいおう)

将軍のあだ名がついている。便秘を改善する下剤としての作用はもちろん、気血の過剰状態を解消して熱を冷ます働きがある。煎じて使う場合は煎じ方で作用が違ってくることがある。

〇大棗(たいそう)

料理にも使われるナツメの実。胃腸の機能を整えたり、精神を安定させたり、筋肉の緊張による疼痛や腹痛などの痛みをやわらげる働きがある。鎮静作用もある。多くの漢方薬に配合されている。

〇沢瀉(たくしゃ)

体の過剰な水分を除く働きがある。尿が出にくかったり回数が多いときや、めまいや嘔吐の改善に効果があるとされる。口の渇き、胃の中に水分がたまっているときなどにも用いられる。

〇釣藤こう(ちょうとうこう)

肝の高ぶりを抑えるといわれ、鎮静作用、鎮痙作用がある。精神不安、頭痛、めまいなどの改善に用いられる。子どものひきつけ、疳の虫にも効果があるといわれる。降圧作用がある。

〇陳皮(ちんぴ)

気の巡らし整える作用や健胃作用などがあり、胃もたれ、嘔吐、食欲不振、かぜによるのどの痛みや咳、痰などの改善に使われる。芳香性があり、気分を落ち着ける作用も期待される。

〇当帰(とうき)

血の不足を補い、巡りを改善する。月経不順、月経痛などの婦人科系疾患の治療によく使われる。また、腸をうるおすといわれ、便通をよくする働きもある。冷え性・貧血に対する処方によく配合される。

〇桃仁(とうにん)

瘀血を除く代表的な生薬。血液凝固抑制作用は薬理学的にも認められている。月経困難や月経不順の調整、打撲による内出血・疼痛の改善のほか、腸をうるおす作用により便秘の改善に用いられる。

〇人参(にんじん)

一般には朝鮮人参の名で知られる。消化機能を高め気の生成を増すことにより、体力を回復させる作用がある。また、新陳代謝を盛んにし、免疫機能を高める働きがある。補剤の王といわれる。

〇麦門冬(ばくもんどう)

乾燥した組織をうるおす作用があるといわれる。肺をうるおして咳を鎮め、痰を改善させる。また、腸をうるおして便通をよくする。煩わしい熱感を取る作用もあるといわれている。

〇半夏(はんげ)

水の代謝障害を改善するとともに、気の巡りを調節する。嘔吐、悪心、めまい、頭痛、痰などを改善する方剤によく用いられる。生姜や乾姜とあわせて配合されることが多い。

〇白朮(びゃくじゅつ)

水滞の改善に用いられる生薬で、体内の水分代謝を正常にする働きがある。消化機能を高める作用もある。関節痛、神経痛などを改善する漢方薬にも配合されている。蒼朮と似た作用がある。

〇茯苓(ぶくりょう)

利水作用に優れた生薬として知られる。余分な水分を排泄させるとともに、胃腸を整え、精神を安定させる作用がある。むくみ、食欲不振、下痢、不眠、動悸などの症状改善に用いられる。

〇附子(ぶし)

トリカブトの根を加工したものである。体を温める作用や鎮痛作用に優れている。冷えの強い人や関節痛、神経痛の改善などに用いられる。副作用(舌・唇のしびれ、吐き気、動悸、不整脈など)の出現に注意が必要。

〇牡丹皮(ぼたんぴ)

血行をよくして、熱を冷ます作用がある。血小板凝集抑制作用などが薬理学的に証明されている。婦人科疾患、月経不順、月経困難など血の滞りによる症状の改善に用いられる。

〇牡蛎(ぼれい)

鎮静・鎮痛・収斂・制酸作用などがあるとされ、胃酸過多、胃痛、寝汗、動悸、夢精、精神不安、不眠などの症状に用いられる。制酸薬として胃腸薬に配合されることが多い。動物性の生薬である。

〇麻黄(まおう)

発汗、鎮咳作用のほか、気管支のけいれんを抑制する作用などがある。かぜの漢方薬に多く配合される。交感神経や中枢神経を興奮させる作用があり、高齢者や心臓病・高血圧のある人などは注意が必要である。

〇薏苡仁(よくいにん)

滋養・利水・排膿・強壮作用があり、むくみをとったり、関節痛の痛みの改善、皮膚の荒れ(にきびをともなう皮膚炎)などによいとされる。いぼ取りの効果も期待される。